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都市・交通計画とミクロデータ利活用顔写真
香川大学創造工学部 紀伊 雅敦 教授

研究背景・ミクロデータ活用の経緯

 都市・交通計画を専攻しており、交通・都市空間が私たちの生活にもたらす影響を研究しています。現在の都市の課題は何か、どうすれば持続可能な都市を実現できるのか、地元の香川県の都市はもちろんのこと、日本の他の都市、世界の都市も対象に研究しています。
 この分野ではデータに基づいて将来推計を行い、計画を策定することが一般的です。中でも近年は、個人の交通行動を予測するモデルとして、ミクロデータを用いて構築する非集計行動モデルを使うことが主流になっており、下記研究においても、年齢階層その他属性ごとに異なる交通行動を正確に捉えるため、パーソントリップ調査ミクロデータを利用することにしました。

研究概要

活用したデータと手法等

 東京都市圏・香川県を対象に、2010年から2050年にかけての乗用車CO₂排出量の推計及びその要因分析を行いました。分析にあたり、東京都市圏及び香川県のパーソントリップ調査ミクロデータ(東京都市圏:2008年、香川県:2014年)を用いて、年齢階層その他属性ごとの交通行動を推計しています。また、人口動態推計として国立社会保障・人口問題研究所の「日本の地域別将来推計人口(平成30年推計)」を用いました。
 乗用車CO₂排出量を排出原単位(燃費:乗用車1台・移動距離1kmあたりCO₂排出量)と乗用車交通量の積と捉え、属性別交通行動と人口動態推計、都市構造・自動車技術の変化見通しを基に各種パラメータを推計し、 2010年から2050年にかけての乗用車CO₂排出量を推計するとともに、その要因を人口・年齢構成・都市構造・自動車技術に分解して、要因別の乗用車CO₂排出量削減寄与を算出しました。

研究結果

 分析の結果、2050年の乗用車CO₂排出量は東京都市圏において約65%削減、香川県において約70%削減(いずれも2010年対比)という推計結果になりました。要因別に見ると、両地域とも自動車技術の削減寄与が最も高く(40%強)、都市構造(コンパクト化)の削減寄与は5%前後に留まりました。
 本研究の結果は、日本政府の長期目標である2050年CO₂排出量80%減を達成するためには、都市構造についてより抜本的な施策が必要であることを示唆していると考えます。

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ミクロデータ活用の有用性など

 都市・交通計画においては、都市における人々の交通行動を細かく把握する必要があり、公表されている集計データでは集計区分が大括りで、分析目的にそぐわないことも多々あります。分析目的に応じて再集計することで、様々な属性別の交通行動を捉えることのできるミクロデータは、都市・交通計画研究において重要なデータとなります。特に政府統計ミクロデータは調査手続きが厳格で信頼性が高く、研究者にとっては魅力的なデータと言えるでしょう。
 都市・交通計画の分野では、近年エージェント・ベース・モデル(各個人が行動し、相互作用する状況をシミュレートする手法)を用いた交通行動推計が着目されており、各人の家族構成等を考慮に入れた分析がなされています。パーソントリップ調査等の交通系ミクロデータと、国勢調査等の個人・世帯に関するミクロデータをマッチングすることが出来れば、今後更にミクロデータの利活用が促進されるのではないでしょうか。

【利活用事例 】

紀伊(2019)
『乗用車CO₂排出量の将来推計と要因分析
-2050年の東京都市圏と香川県を例として-』
Journal of Japan Society of Energy and
Resources, Vol. 40, No.4

【研究キーワード 】

CO₂ emission from passenger car,
Population change, Urban structure